バシャァン

「よぉし、また釣れた」

 今日何匹目かの大物だった。沢山魚が釣れると段々楽しくなっていくが、それをナコルルの前で言ったら、きっと一晩中説教を受ける羽目になるだろうなぁと、ミカトは心の中で呟いた。

 今やナコルルが笑うことが当たり前になってきたが、前までは、いつもナコルルは上の空で、心ここにあらずという状態が続いており、ナントカしてナコルルに笑顔を取り戻そうと、ありとあらゆる手段を使ったものだ。 

でも、最後にナコルルに笑顔を取り戻したのは、ナコルルの幼馴染のヤンタムゥだった。ミカトとマナリとリムルルがそう仕向けたのだが・・・。

 やり方はどうであれ、ナコルルが心から笑えるようになったことを、ミカトは素直に喜び、ナコルルを救うことが出来たヤンタムゥは凄いなぁと感心していた。

でも出来ることなら、自分がナコルルの笑顔を取り戻したかったと思うミカトであった。

「お、今日もずいぶんと釣ったじゃないか」

 振り向くと、ミカトが釣った魚を入れてある篭を覗き込んでいるヤンタムゥが居た。

「ヤンタムゥも魚を釣りに来たの?」

「ん、まぁな」

 ヤンタムゥの手に持っている釣竿を見ればすぐ分かることだったが、反射的に訊いてしまい、それに簡単に答えたヤンタムゥが、ミカトの隣にどっかりと腰を落とし、川に糸を垂らした。

「・・・ナコルルの事、本当の意味で理解してるんだね」

「どうしたんだ?突然」

「きっと、ヤンタムゥが居なかったら、未だにナコルルは笑えてなかったと思う」

 ヤンタムゥは照れくさそうに笑いながら頭をかいた。

「俺も俺なりに、ナコルルを笑わそうと必死だったからな」

 昔の良き思い出を話すように喋りだすヤンタムゥ。

普段から軽いノリで人と接し、人生を面白おかしく過ごすことばかりを考えている、でもナコルルのことになると真剣になるヤンタムゥ。

ミカトは改めて、幼馴染というものの深い絆を理解できたような気がした。そして同時に、ナコルルとそんな風に、深い友情で結ばれているヤンタムゥがうらやましくもあった。

「でも、これからナコルルの笑顔を守っていくのはミカト、お前だぞ」

「うん・・・・・・え、ええっ!?」

 ナコルルとマナリとヤンタムゥが集まれば、ナコルルはいつも笑顔を見せてくれるし、どうして自分がヤンタムゥにそういわれたのかが、全く理解できなかった。

「そ、それはマナリやヤンタムゥの方がいいんじゃぁ・・・」

「お前はナコルルと一緒に過ごしてるんだから、いつでもあいつを見ていてやれってこと」

 ようは自分がナコルルのことを悲しませないようにすればいいんだと、ミカトは自分なりに解釈した。

 ヤンタムゥに言われる前から気を使っていることだったが、ヤンタムゥに言われて改めて、絶対にナコルルのことを悲しませない、自分の出来る範囲で、ナコルルの笑顔を守っていこうと誓った。

「でも、僕はどうすればいいのかな」

「別に、いつも通りしていれば良いのさ」

 ヤンタムゥはあくまで楽観的だ。これだけ真剣な顔をして聞いてきているにもかかわらず、さも普通だろ?というように答える。

その楽観的な性格は、いったいどこから来ているのだろうと、ミカトは疑問が晴れない。

そんなことを思いながらも、ミカトは着々と魚を釣り上げていった。

「それじゃぁ僕、もうそろそろ行くよ」

 気づけば、ミカトが持って来た篭の中は、ミカトが釣り上げた魚で一杯になっていた。それは、ミカトが満足いくには十分な収穫であった。

これ以上の魚を釣ってきたら、ナコルルに怒られそうだとミカトは思い、早速釣竿を引き下げて帰る準備をし始めた。

「ああ。ナコルルのこと、よろしく頼むぜ」

 ヤンタムゥの言葉にうなずき、ミカトはその場から立ち去った。

 

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