あれから数日、カムイコタンはいつもどおりの活気に包まれている。
眠りに付くって言っていたから本当に眠るのだと思っていたけれど、意識ははっきりしているし、カムイコタンの様子を見る事も出来る。大自然が私の頭にイメージを送ってきてくれている。
おかげでカムイコタンで起きている事が手に取るように分かった。
ヤンタムゥがマナリの事をからかってる。あの二人は本当に仲良し、変わり無いようで安心。
ミカトはまた、知恵老婆に捕まったみたい。
知恵老婆はミカトに会うたびに、ミカトに変な問題を出してきて、そのたびにミカトは頭を抱えている。きっとからかわれているのね。
リムルルが震えながら滝に打たれている。私がいなくなってから、次の巫女にリムルルがなることになり、そのための修行をやっているとのこと。
昔私もやらされた。“大自然を体で感じろ”と長老に言われ、泣きながら滝に打たれていた。おかげでそれから数日は風邪で寝込んでしまった。
私のせいで、余計な苦労を掛けさせちゃってる。ごめんね。ごめんね。
私がいなくても、村はいつも通りでいられるのだということを知ると、巫女としての自分の影響力というのが小さいような気がした。私がいなくても平気なんだと思うと、少しばかり寂しくもあった。だがそれ以上に、村が平和であるという事を素直に喜んだ。
『本当は、僕がいけなかったんだ』
ナコルルは今、大木に背をもたれて座っている。ただし、これはイメージであって、実際にそうしているという訳ではない。
『もともと僕は臆病で、人間に切られてしまいそうで、あの人間たちが怖くて、だから・・・』
ナコルルの頭の中に響く声の主は、ナコルルが寄りかかっている大木である。大木といっても、まだ子供の木だ。
「あなたは悪くない」
悪いのは一部の人間だけだ。命を奪う事の味を知ってしまった人間は、もはや魔物と変わりない。そう、天草のような・・・。
「私は、もっと多くの世界を見ていかないといけない。そのためにも早く、乗り越えないといけない」
自分を取り戻し、自分の巫女としてあるべき姿というのを探そう。そう心の中で誓う。
「あなたが村にいてくれれば、きっと皆がより、自然の大切さを理解してくれる」
「姉さま」
その声はリムルル?そう、修行が終わって寄ったのね。
隣にはミカトもいる。
二人は揃って、私の前で膝を付いて、両手を握って何か祈り始める。
まるで自分が神様にでもされたような気がして少しむずがゆい。
祈りの姿勢を解いて立ち上がり、目の前の木を見上げる。そしてリムルルが少し怒ったような顔をする。
「あたしが巫女をやるっていうのは、姉さまが戻ってくるまでの間なんだからね。だから早く戻ってきてよね!」
それは、私が帰ってくるのを待っててくれるって事だよね?私を必要としてくれているんだよね?
「僕もやっぱり、ナコルルがいないと寂しいよ」
ごめんね、寂しい思いをさせちゃって。
「でも、僕もリムルルも待ってるから。きっと戻ってきてね」
うん、うん、きっと、戻るから。
「それじゃあ、今日は帰るね」
去っていく二人を見送る。
私には帰る場所がある。きっと戻ってくるから。きっと全てを振り切って帰ってくるから。
私にとって、とても大切な
あなたたちの元へ・・・