ナコルルの目の前には、木の枝が張り巡らされた家々が、崩れそうになりながら続いていた。ナコルルが一軒一軒に種を植えたことによってこうなった。

 あの家の中にいた人間は、隙間無く伸びた木の根っこで串刺しになっているか、押し潰されているかしていて、おそらく家の中にいて生きている者はいない。

 女子供関係なしに届く範囲ではナコルルの餌食となり、実質この村は壊滅した。

『見なさい、この大地を。人間が住む場所は、自然破壊によって生まれた土地だ』

 ナコルルの目にも、この土地では植物が育たないことは分かる。きっとこの地にも、昔は緑が広がっていたのではないかと想像する。

 もう一度村の中を歩いてみる。今度は、ここに辺り一面緑の草や、色とりどりの花々が咲き乱れているのを想像しながら。

 そこは、赤ん坊を抱いて逃げている母親を、赤ん坊ごと突き刺して殺した場所。そして、親子の死体の前には、一人の男が片膝を付いてかがんでいる。

「・・・・・・覇王丸?」

 以前、共に天草討伐に行った男がそこにいる。

「ナコルル・・・オメエがやったのか」

 ナコルルは答えない。だが覇王丸には、ナコルルの体に巻きついている枝や、ナコルルのただならぬ雰囲気から、これらをやったのはナコルルであることが想像付く。

「テメエ、何でこんな事をっ!」

 覇王丸は、ナコルルに対して敵意をむき出しにしながら立ち上がり、腰に刺している愛刀河豚毒を引き抜く。

覇王丸を敵と認識したナコルルも、さっきのように右手を植物の刃に変える。

(覇王丸は、必要じゃ、ない・・・)

 刀を構えて見据える覇王丸、一向に動く気配の無いナコルル、じりじりと右にずれていく覇王丸に、ナコルルが顔と目だけで追うという状態が続く。

 少しずつ横にそれていくと、カツッと足に何かがぶつかる。

 ガシッ

「ぐっ、な、何だコリャッ!?」

 それは木の根っこだった。そこには木など生えていない、それは地面から生えている。そして覇王丸の右足に巻きついている。気付けば、地面にミミズ腫れのような盛り上がりが走っており、それはナコルルの足元から来ていることも分かる。

「このっ、離れやがれ!」

 じたばたと暴れて右足を抜こうとするが、ピッタリと巻きついて固まっているそれは、まるで金属を思わせるほど硬く、刀で何度も突き刺してやっと開放する。

「くっ、やっと外れ・・・ッ!」

 ズシュッ

 背中に鈍い痛みが走り、カァッと熱くなる。どろりとした熱い何かが背中を這うのを感じる。全身が痺れてとても立ってはいられない。

「あんな所で目を逸らすなんて、愚かな・・・」

 人の足では到底敵わない速さで覇王丸の背に回り、ナコルルの刃が、覇王丸の背中を大きく切り裂く。それこそ、で覇王丸の動きを止めるまでもないくらい・・・

覇王丸が地面と一体化した。もう既にナコルルにはその姿が見えていない。

「ま、待て・・・」

 覇王丸の苦しそうな制止に応え、ナコルルは足を止める。

「何故、何でお前がこんなことを・・・」

「・・・自然の害敵、殺す」

 その一言だけを残し、もう何も聞きたくないナコルルは立ち去る。

 

《前頁  戻る  次頁》