キシィンッ
金属と金属がぶつかり合う音が響く。それだけで、ナコルルの刃がどれだけ硬いのかが分かる。その硬さは普通の金属、またはそれ以上だろう。凶器としては十分な代物だ。
ナコルルは決してリムルルを傷つけない、決して相手の体を狙った攻撃を繰り出さない。背中の枝などを使えばたやすく始末できるのに、ナコルル自身の心と、ナコルルの中に居るもう一人の自分の静止で、本気で戦うということをしていない。
リムルルは、ナコルルの考えをよそにナコルル自身を狙ってくる。
相手の戦意を喪失させるまで、例え相手が実の姉であっても、瀕死にまで追い込むつもりで刃を繰り出してくる。ナコルルが本気を出せば自分など簡単にひねり潰されてしまう、その事実がリムルルには見えていなかった。
「姉さま、もうこれ以上、人を殺さないで」
「リムルルだって、人間達を懲らしめてやるって言ってたくせにっ!」
「だからって人を殺していい訳ない!」
刃を交える姉妹喧嘩。ナコルルはリムルルを傷つけぬように戦い、リムルルの攻撃でナコルルに致命傷を与えることはまず無い。どちらも命を落とすことは無いだろうが、お互いに命懸けで喧嘩をしていた。
「リムルル達以外要らない、みんな死んでしまえばいい」
「ッ!姉さまのバカァッ!」
刀を鞘に収めるとコンルがリムルルの前に移動し、それに両手を突き出すと、コンルから無数のツララがナコルルに向けて突き出る。
すんでの所で、全身を覆わんばかりの木の枝で盾を作るが、最後の、人の上半身位はあるツララの衝撃に後ろにのけぞる。
盾を解除して視界を開くと、リムルルが投げた氷の塊がすぐそこまで来ていた。
ガキィンッ!
急だったせいで盾を作る暇がない。目の前に来る氷の塊を右手の刃で払うと、右腕に衝撃以外の痺れを感じた。
見ると、塊を触れた部分一帯が白く凍り付いている。木の温度が下がって右手の温度が奪われていくような気がし、奥歯を噛み締めながら刃を解く。
「どうして・・・どうして私の邪魔するの!?」
背中からありったけの枝を飛ばす。もうやぶれかぶれになったナコルルは、リムルルを傷つけないという決意を忘れかけていた。
「ッ、コンルッ!」
再びコンルを前に突き出すと、丸い塊が大きな鏡に姿を変えて、迫り来る枝に備える。
バリィンッ
普通なら少し触れただけで凍り付いてしまっているだろうが、一本だけ凍り付いて動きを止めていたとしても、その一本が鏡を破壊してしまったためにリムルルは丸腰だ。残りの枝の襲撃に成す術も無く、両腕、両足、胴、首を枝に拘束されて宙吊りにされる。
枝が長さを縮めてリムルルの体を引き寄せる。
「私はただ、自然に害のある人間を駆除しているだけなの。人間て、自然を敬って、自然を大切にしていかないといけない筈なのに、そうしない人間ばかりなんだもの」
引き寄せている最中に、ナコルルは優しい口調で語りかける。リムルルの事をなだめ、説得するという意味合いを持って言葉をつむぎだす。
「お願い、手伝って。一緒に人間を討ちましょ?」
だが、それは決して応じてはならない内容の説得である。リムルルはひたすら首を横に振るばかりであった。
「どうしても協力してくれないの?」
ナコルル悲しそうな表情を浮かべてうつむく。たった一人の妹に、自分の気持ちを分かって貰えなかったというのはショックなことだった。そして同時に、自分の思い通りに行かない苛立ちがエスカレートしていく。
ギシギシギシ・・・
「っく、ぐる、じぃ・・・」
苛立ちのせいであろう、無意識にその枝はリムルルの体を締め上げている。拘束されている各部が締め付けられてうめき声を漏らす。骨までもがミシミシいい始めて、もう駄目だと諦めかけたその時。
ズシュッ
急に体の締め付けがゆるくなり、押さえる力を失った枝から逃れて地面に落下する。
ナコルルにも何が起きたのか分からず、顔を上げて辺りを見回す。正面には、枝から解放されてむせているリムルル、そして視線を右に逸らすと・・・。
「・・・・・・ミカト?」